日本企業のデジタルアダプションは依然として初期段階にあり、障壁は「コスト」と「従業員間のスキル格差」
米国 Autodesk 社(本社:米国カリフォルニア州/代表取締役社長兼 CEO:アンドリュー・アナグノスト)は本日、建設業界におけるデジタルアダプションの現状に関する調査レポートを発表します。
現在、アジア太平洋地域の建設/エンジニアリング業界のリーダーたちは、変革をもたらす新しいテクノロジーと厳しい事業見通しを背景に、自社のツールや従業員のスキル ニーズ、顧客や施工業者との関わり方について真剣に考え直す必要に迫られています。
Autodesk は、このような目まぐるしく変化する環境の中で、建設/エンジニアリング業界のリーダーが十分な情報に基づいた意思決定を行えるよう、業界におけるデジタル アダプションの現状と、テクノロジー スタックから最高の利益を得ようとする企業にとってのベスト プラクティスを探る目的で、調査を実施しました。
今年で 2 回目となる本調査は Deloitte Australia の協力の下、オーストラリア、シンガポール、日本に新たに 3 ヵ国(インド、マレーシア、香港)を加えた計 6 ヵ国に拠点を置く、建設・エンジニアリング企業 933 社を対象に実施しました。レポートでは、建設・エンジニアリング業界に影響を与える新たなトレンド、デジタルテクノロジーの導入効果や現在の先行き不透明な時代における今後の展望について調査した結果をまとめています。
アジア太平洋地域全体における主な調査結果は、以下の通りです。
- アジア太平洋地域では建設会社の 30% が AI と機械学習をすでに業務で活用しており、さらに 39% が将来的に AI と機械学習の利用を計画している
- ジェネレーティブ AI は建設・エンジニアリング業界において基盤技術として普及することが期待されており、現在、AI や機械学習をビジネスに取り入れる計画のある企業は 94%
- ビジネスの成長を支えるテクノロジーの役割の重要性は、ますます認識されてきており、新しいテクノロジーを新しいプロジェクト作業の支援と考える企業(38% から 45% へ増加)と、社内プロセスの改善と考える企業(37% から 43% へ増加)の両方が増加
- 共通して最も多く利用されていた技術は、データアナリティクス(47%)、建設管理ソフトウェア(43%)、モバイルアプリ(40%)など、建設業務のバックボーンを提供する基盤技術
テクノロジー アダプションの現状
多くの建設会社やエンジニアリング会社が試験的にデジタル テクノロジーをビジネスに取り入れていますが、業界全体ではまだ大きな改善の余地があります。アジア太平洋地域の企業に 16 種類の施工テクノロジーの使用について尋ねたところ、平均 5.3 種類の建設テクノロジーを業務に使用していることが判りました。
日本企業はまだデジタル アダプションの初期段階にあり、使用しているテクノロジー数は平均で 2.9 種類です。他の市場と比較して最も低い結果となり、またこのような市場間の格差は今後も続くと考えられます。また、テクノロジーの利用を大幅に増やそうと計画している日本企業はほとんどなく、新しいテクノロジーへの支出に占める割合は調査対象国の中で最も低く、わずか 14% にとどまっています。これらの結果は、日本企業にはテクノロジーの使用を拡大する余地があることを示す他の調査と一致しています。1
しかしながら、テクノロジーを導入している日本企業では、収益率が他国と同程度であることから、さらなる導入が大きな利益をもたらす可能性があることが示唆されています。たとえば、清水建設は、1 人の作業員が現場の複数のロボットを操作できるテクノロジーを導入し、労働生産性の大幅な向上を実現しました。建設業が効率的に事業を継続するためには、テクノロジーの活用が不可欠です。
高まる建設分野における AI の重要性
ジェネレーティブ AI は、ChatGPT、Midjourney、Github Copilot のようなツールの急速な普及とともに、経営幹部にとって対応が急がれる課題となっています。このテクノロジーの変革の可能性とは無縁でいられる業界はありません。事実、当社の調査によると、アジア太平洋地域の企業のほぼ 95% が、AI は 5 年後のビジネスの展望にとって重要になると考えています。大企業ほど、このテクノロジーを将来の成長の中核要素と考えている傾向が強く、AI を非常に重要と考えている大企業は、中小企業の 4 倍に上ります。
テクノロジーアダプションの拡大がもたらす恩恵
デジタル テクノロジーは、建設/エンジニアリング企業が直面する主要な課題、すなわちコストの削減、効率性の向上、成長の促進に対処することができます。新型コロナウィルスのパンデミックに端を発したコスト圧力やサプライ チェーンの混乱が続く中、企業は新しいツールや働き方への適応を迫られ、テクノロジーが業務にもたらすメリットを見出しています。
アジア太平洋地域全体でテクノロジー導入のメリットとして最も多く挙げられているのは、建設/エンジニアリング企業が直面する重要な課題であるコスト削減に直結するもので、実に 46% もの企業が挙げています。そのほか、利益の増加(42%)、生産性の向上(39%)なども多く挙げられています。日本では、「効率の向上」「コストの削減」「マージンの改善」がテクノロジー アダプションのメリット トップ 3 となり、利益に直結する効果を重要視していることが伺えます。
実際、AI やその他の 15 のテクノロジーを採用した企業の大半は、この投資から利益を得ています。80% 以上の企業が、データ分析、モバイルアプリ、ロボット工学、プレハブ モジュール建設、施工管理ソフトウェアを導入することで、強力なビジネス リターン、またはプラスの投資対効果を得られたと考えています。
また、これらのテクノロジーは、さらに高度なテクノロジーからのより大きなリターンを可能にすることができます。データ分析、施工管理ソフトウェア、モバイル アプリを使用している企業は、拡張現実や仮想現実(成果が 15% 増)、AI や機械学習(13%)、デジタル ツイン(11%)などの高度な技術の導入に成功したと回答する割合が高くなっています。
テクノロジー アダプション拡大の障壁を乗り越えるために
デジタル テクノロジーを事業運営に取り入れる上で、企業はさまざまな障壁に直面しています。今回の調査でも、94% の企業が導入の障壁に直面していると回答しています。また、アジア太平洋地域における 42% の企業が、デジタル テクノロジーを取り入れる上で最も一般的な障壁として、「従業員のデジタル スキルの不足」を挙げています。
一方で日本企業は、テクノロジー アダプションにおける最大の障壁はテクノロジーにかかるコストであり、次いでスキル格差であると考えています。現在、日本のインフレ率は過去の平均を上回っており、コスト圧力はさらに強まる傾向にあります。
高齢化によって労働人口が減少する日本では、特にデジタル テクノロジーに関するスキル格差が予想されます。2 3 分の 1 を超える日本企業が、AI と機械学習、サイバーセキュリティ、データ分析についてスキル格差として回答しています。スキル不足が障壁となっているにもかかわらず、スキル不足を克服するための対策を講じる企業は少なく、アジア太平洋地域では労働者を新規採用する企業が 75%、既存の労働者のスキルアップを図る企業が 80% であったのに対し、日本企業ではそれぞれ 58% と 66% でした。
他国に比べて移民の受け入れが少なく、特に大卒者以外の移民を受け入れてこなかった日本政府は、建設分野に熟練した労働者に移住の機会を提供するための措置を取り始め、技能労働者の上限を 5 年間で 82 万人に倍増させました。3 これは、スキル障壁を減らすことを目的としたものではありますが、技術トレーニングや日本企業からの採用などのサポートが必要であると考えられます。
デジタル アダプションを改善するために優先すべき 5 つのアクション
本レポートでは、デジタル テクノロジーの業務への統合を改善しようとする企業に対して、5 つの主要な優先分野に焦点を当てることを推奨しています。
- デジタル トランスフォーメーションは小さな規模から始め、規模を拡大する際には変更管理コストを考慮する
- 企業内のテクノロジー変革のリーダーを選ぶ
- デジタル アダプションに関して、さまざまな成功の尺度を追跡する
- デジタル エコシステムを構築する
- 自社のビジネスが AI に対応しているかどうかを確認する
レポートの詳細と全文は、こちらよりダウンロードできます(無料)。
1 Deloitte Access Economics(2023) 「State of Data Capabilities in Construction(建設業界におけるデータ活用の現状)」
2 Recupate Works Institute(2023)「Future Prediction 2040: A Labour Supply Constrained Society Appearance(未来予測 2040: 労働供給制約社会の登場)」
3 「技能労働者枠倍増で外国人材獲得に奔走」、Nikkei Asia、湯浅太周
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