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オートデスク ニュース

オートデスクと共に創る大和ハウス工業の新たなイノベーション戦略 ~新たな戦略的パートナーシップによる BIM のその先へ~ Vol. 2

これまでのお話で、大和ハウス工業が 5 年で建築設計 BIM 100% を達成するなどの成功事例を支えたのは、オートデスクとの MOU(戦略的パートナーシップに関する覚書)があったということが見えてきました。大和ハウス工業の BIM を先導してこられた南川上席執行役員と河野上席執行役員、そして共にこれを進めてきた米国 Autodesk 社よりカスタマーエンゲージメントのあらゆる側面を担当するグローバル部門の最高責任者であるエリザベスさんと、オートデスク(日本法人)アカウント営業本部 シニアマネージャーの稲岡さんに、今後の日本の建設業の未来を示す、大和ハウス工業とオートデスクの MOU が、具体的にどのようなものなのか?今後どのような取り組みをしていくのか?ということを中心に、お話をお聞きしたいと思います。

(聞き手:株式会社 BIM プロセスイノベーション 伊藤久晴)

※以下、敬称略

 

【伊藤】 大和ハウス工業の取り組みが、Autodesk University 2022 を通じて、世界中に発信され、今後の取り組みに目が離せなくなっています。そのような中、大和ハウス工業は、オートデスクと 3 度目となる、新しい MOU3.0 を締結し、取り組みを始めています。この新たな取り組みについて伺いたいと思います。

 

― 大和ハウス工業とオートデスクが結んでいる MOU というものは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

【稲岡】 大和ハウス工業との MOU は、戦略的パートナーシップに関する覚書のことを指しています。お客様と当社の間で、世の中の為、業界をリードするため、お客様のため、特に先進的なことに取り組むことを両社で合意し、戦略的に会社全体を巻き込んで進めていくパートナーシップということです。大和ハウス工業とは、当社の戦略を十分に会話させて頂いた上で、大和ハウス工業が達成したいこと、あるべき姿をしっかり聞いて進めてまいりました。最初の MOU の目的は、BIM 実施率を 100% にする事でした。そこから徐々に進化を遂げて、今回新たな MOU を結ぶこととなりました。

 

― この MOU の取り組みにおいて、カスタマーサクセスチームの役割というものはどのようなものでしょうか?

【エリザベス】 MOU の枠組みは両社の間で何を達成したいか、ビジョンを共有する素晴らしい機会です。当社のカスタマーサクセスチームはお客様と手を携えて、ビジョンを実現する役割を担います。コンサルタントは深い技術的な知識と、世界中の成功事例を提供します。またカスタマーサクセスマネジャーは、チームが目標を設定し、ゴールの達成へ向けその進捗をトラッキングしていく支援をしていきます。

 

MOU3.0 の取り組みにおいてコマンドルームというイメージで、ひとつの大きな目標を語られているようですが、このコマンドルームについてご説明頂けますでしょうか?

<「コマンドルーム」のイメージ>

【河野】 このコマンドルームというイメージは、オートデスクと一緒に考えたものです。遠隔監視は現場の管理ですが、これはそこから一歩進んで、「経営全体を見える化する」 というような意味合いを含んでいます。ここからどんな意思決定、または経営判断をするのか、それが事業に落とし込まれたコマンドルームであれば、どんな価値を生むか、など具体的な取り組みはこれから一緒に作っていくことになります。そうした想像を掻き立てるようなビジョンを、こういったイメージで示すことができたと考えています。

経営者の判断は、技術的な情報だけでは成り立ちません。経営者が見たいもの、事業の責任者が知りたい内容を、技術情報を元に、瞬時に見せられることが重要です。技術基盤に蓄積されたデータを、技術部門だけでなく会社全体で共有し、活用できる仕組みをデジタル化の先に描いています。

【南川】 当社は建築系だけで実施設計年間 900 件、企画設計 4,000 件とお伝えしましたが、住宅系の案件も含めると、さらに膨大な物件数を扱っています。当社はメーカーでもあり、ゼネコンでもあり、デベロッパーでもあります。こうした企業は他にはありません。多様な業務に対応する当社が情報共有しようとしたら、こういうデータドリブンなコマンドルームは必然的なものだと考えています。

 【伊藤】 MOU3.0 を象徴するコマンドルームという概念は、設計・施工のみならず、大和ハウス工業がそのプロセス全体で蓄積していく情報を、リアルタイムで分析し、意思決定、経営判断ができるようにしていくための、情報基盤にしようという試みということですね。

 

MOU3.0 では、BIM のその先に向けた優先的な取り組みとして、具体的に 6 項目を挙げておられます。その中に、建設デジタルプラットフォームと次世代建設プラットフォームという言葉があります。これらのプラットフォームついてご説明頂けませんでしょうか?

<MOU3.0 で取り組む 6 つの内容>

【南川】 建設デジタルプラットフォームとは、モノづくりを含まないもっと大きい分野の情報を含んだデータが建設にはあるので、そういった意味でのプラットフォームを指しています。次世代建設プラットフォームというのは、DfMA(製造組立容易性設計)などの先進的なモノづくりのために必要となるプラットフォームです。これらのプラットフォームは繋がりを持ってデータを一元管理していくものです。

 

Autodesk University 2022 ではオートデスク社の新しいプラットフォーム戦略が発表されました。このオートデスクのプラットフォーム戦略とはどのようなものか?それを大和ハウス工業とどのように実現していこうと考えておられるのかお教えください。

【エリザベス】 このプラットフォーム戦略というのは、今後数年間、オートデスクがリードしていく大きな戦略のひとつとなります。お客様は、すべてのアプリケーションからこのプラットフォームを通じてデータへアクセスし、その恩恵を受けられるようになります。更に建設業のバリューチェーン全体にわたって、より簡易化され、構造化されたワークフローを実現することができます。そして、あらゆる役割をもったユーザーの皆様が、必要な時に必要なデータにアクセスできるようになります。

【稲岡】 今回の MOU においては、オートデスクとしてのプラットフォーム戦略という方向性、また、あらゆる業界が収集した様々なデータをもとに判断・行動する、データセントリックな世界に向かっている動きを意識して、ビジョンを作成しました。この二軸は互いに影響しあい、化学反応を起こすように相乗効果を生み、よりクリエイティブな世界が見えてくると考えています。しかしながら、我々一社だけで、大和ハウス工業が目指すコマンドルームの世界を実現できるとは思っていません。オープンマインドで、他社の素晴らしい技術や意見も聞きながら、共に大和ハウス工業が目指す世界を実現していきたいと考えています。

 

MOU3.0 の取り組みの中で、各種プラットフォームを活用できるデジタル人財という言葉もあります。どのようにしてこのデジタル人財を作り、育てていこうとされているのか、お教えいただけますでしょうか?

【南川】 デジタル人財というのは、今各社で話題になっています。外部に頼るという方法もありますが、基本的には社内の人財を育てるということの方が重要だと考えています。オートデスクの研究施設であるボストンなどのテクノロジーセンターへ社員を短期留学のような形で派遣し、現地で様々な企業や大学と交流し、外の世界に接しながら、先端の技術や考え方も学んできてもらうようなことを考えています。

もう一つは、デジタルデータの共有がもたらす創造性、その重要性を理解してもらうための発信を社内でも積極的に行うということも重要だと考えています。担当者から経営トップまで社内で幅広く、より多くの人にその重要性を理解してもらえたら、さらに加速度的にデジタルディスラプションが起きてくると思います。つまり、デジタル人財の育成とは、単にデジタル技術を持った人を育てるということだけでなく、トップからボトムまで、すべての社員の意識改革をするということが大事だと考えています。

【伊藤】 プラットフォームの構築、コマンドルームの活用のためにも、デジタル人財が必要になります。それを安易に外部に求めるのではなく、社員全員の意識改革によって、全員が対応できるようにしようというのは素晴らしい発想だと思います。これから数年で大和ハウス工業が何を成し遂げるのか、目が離せなくなってきました。

 

― 本日は両社が締結された MOU を中心にいろいろとお話を伺ってまいりましたが、最後に、両社の今後の展望についてコメントをいただけますでしょうか?

【南川】 これまでのオートデスクとの取り組みを通じて設計 BIM 完全移行が完了し、その BIM の基盤情報を使って手がけていくべき様々なことが、おぼろげながら見えてきた段階に至りました。これまで 5 年間一緒にやってきて我々の思いを十二分に理解しているオートデスクと共に、次の世界を実現していきたいと考えています。もっともっと良い世界が見えてくると期待しています。

【河野】 新たな目指すべきビジョンを二社で共有し、それを支える技術基盤の整備を進め、エンジニアリングデータを作り、集め、そして活用する。平行して人財を育成していく。今回のインタビューを通じて、改めて MOU の重要性を確認できました。エリザベスさんからもサポート頂きながら会社レベルでのパートナーシップを継続し、共に成功を目指して取り組んでいきたいと思います。

【エリザベス】 両社のパートナーシップが次の段階へ進化していくことをとても楽しみにしています。これまでの数年間ですでに多くのことが達成されてきたと思います。しかし、次のフェーズで私たちが達成することに比べれば、それは小さなものだったなと思える時が来るかもしれません。これまで築きあげてきた BIM 基盤を全社で展開し、次のレベルへ向かってさらなる進化を遂げていく大きな節目を、全力で支援させて頂きたいと考えています。

<インタビューに答えてくれた皆さんと大和ハウス工業の建設 DX 推進部の皆様>

【伊藤】 大和ハウス工業は、これまでの 5 年間の取り組みで、建築系設計 BIM100% を実現し、施工現場のデジタル化を加速してきました。オートデスクとの新しい MOU3.0 では、新たなプラットフォームの構築やデジタル人財の育成によって、BIM やその他の情報を、経営資源のレベルにまで引き上げて、経営トップの意思決定のために活用するという「コマンドルーム」を作ろうという構想を立てておられます。これは、労働生産性の低さなどの問題を抱えた日本の建設業にとって、明るい未来を示す大きな取り組みだと思います。

大和ハウス工業のこの 5 年間の躍進は、オートデスクとのパートナーシップがあったからこそ実現できたことだと南川上席執行役員・河野上席執行役員ともにおっしゃっています。しかし、それは次におこる大きなイノベーションの前では、小さなことだったと思えるかもしれないと言われた、エリザベスさんの言葉が印象的でした。その大きなイノベーションの成果こそが、日本の建設業の未来にとって必要なものであることは、間違いありません。

類まれなイノベーターであった創業者石橋信夫氏の教えを胸に、日本の BIM の将来を背負って挑戦し続ける大和ハウス工業。この大和ハウス工業とその戦略的パートナーであるオートデスクの BIM journey(BIM の旅路)を、これからも楽しみにしてゆきたいと思います。

 

■ インタビュー参加者の略歴

大和ハウス工業株式会社 上席執行役員 南川陽信氏

設計事務所勤務の後、1986 年大和ハウス工業に入社。事業所設計責任者、建築系設計推進部長を経て、2014 年 4 月に執行役員就任、2017 年より全社 BIM 推進担当役員、その後流通店舗事業本部副本部長を兼任し、事業部と本部が一体となった技術基盤構築を推進。設計で培った、新しいことを創造し組み立てるクリエイティブな手法を BIM・DX でも展開し、数年先の技術者が必要とする基盤作りを目指し、技術革新を進めています。

 

大和ハウス工業株式会社 上席執行役員 河野宏氏

1985 年大和ハウス工業に入社。 住宅施工推進部を経て、2014 年 4 月に執行役員就任。2019 年より社内の建設 DX「デジタルコンストラクションプロジェクト」を立上げ、「第 7 次中期経営計画」終了時の 2026 年度末には、建設プロセスのデジタル化により、生産性の 50% 向上を目標に活動中。将来を担う若い世代が「働きたい」「働きがいがある」業界を目指し、デジタルコンストラクションプロジェクトを通じて、その実現を目指しています。

 

Autodesk, Inc. CSO チーフ カスタマー オフィサー エリザベス・ゾーンズ氏

コンサルティング、カスタマーサクセス、パートナーサクセス、製品サポート、リニューアルを含む、カスタマーエンゲージメントのあらゆる側面を担当するグローバルチームを統括。顧客との新規契約開始からリニューアルに至るまで、カスタマーサクセスやサポート、プロフェッショナルサービス等を主導してきた豊富な経験を持ち、カスタマーカンパニーとしての考え方を体現してきました。エリザベス氏は、カスタマーエクスペリエンスとカスタマーサクセスに関する業界のオピニオンリーダーとして知られています。20 年以上のキャリアの中で、一貫して変わらないのは、顧客に対する情熱と、顧客のポジティブな体験が収益の成長につながると信じていることです。

 

オートデスク株式会社 稲岡俊浩氏

オートデスクでは 10 年以上建築、建設、土木、エンジニアリング業界に従事。現在はアカウント営業本部の副本部長で包括契約をリードしています。大和ハウス工業における日本の責任者。大和ハウス工業とは、BIM 推進が組織化される前から並走し、現在に至っています。

 

 

【執筆・インタビュアー】株式会社 BIM プロセスイノベーション 伊藤久晴

2021 年 3 月に大和ハウス工業株式会社を退職後、「BIM プロセスを改革しよう!」という強い信念で、株式会社 BIM プロセスイノベーションを設立。ISO19650 などを軸として、日本の BIM の普及と発展のために、地道に BIM コンサルティングの活動を行っています。

 

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